柏島をまるごと自然博物館に
目の前の海を再発見
(「朝日小学生新聞 平成12年1月1日 一面・二面に掲載)

「日本全体には三千六百種類の魚がいるといわれています」「じゃあ柏島に三分の一がおる!」「そう。日本でいちばん魚の種類が多いのが、大月町の柏島です」ーー高知県大月町にある姫ノ井小学校。全校児童二十六人の前でお話しする神田優さんは、高知大学などで教えるお魚の先生です。柏島をみんなで「島ごと博物館」にしようと提案して、おととし島に移り住みました。大月町をはじめ、県内外の小中学校で環境学習会を開き、柏島の海と生きもののすがたをつたえています。
 四国の南西のはしにある柏島は、人口およそ六百人の漁業の島。日本でも一、二というたくさんのイシサンゴにかこまれています。四年前の調査でわかった魚の数は八百八十四種。新種や、外国でしか見つかっていなかった魚をあわせると千種にのぼります。「子どもたちに、見なれた地元の海がいかにすごいか知ってもらいたい」と神田さんはいいます。
 地域そのものを博物館に見たてて、自然や文化をまるごと体験できる場所にする。それがまるごと博物館(フィールドミュージアム)の考え方です。
 子どもたち、研究者、ダイバー、地元の人が、みんなでひとつの海を分けあいます。最新の研究を漁師さんが仕事にいかし、都会へ出た子がほこらしくふりかえることができる島==夢はふくらみます。中心になる「黒潮実感センター」という施設と、県内のいくつかの施設が連携して、高知県全体を博物館にしようという案も出ています。
 島の入り口の橋の上から、海中が手にとるように見えました。人のくらしのすぐそばまで、生き物がいっぱい。南の海に多いツバメウオがいた、と思ったら、温帯の魚、ブダイやメジナもいます。温帯にありながら、熱帯や亜熱帯と温帯の生物がまじりあう光景も柏島ならではといいます。
 町内の姫ノ井小でも、柏島へ行ったことのあるお友だちはわずかでした。身近すぎて気づかなかった自然です。「みんなも海へ行ってみましょう。ゴミがあったらひろうてもってかえってね。そうしたら、十年、二十年、百年先も、きれいな海がのこると思うから」。神田先生は、学習会をそうしめくくりました。