島をまるごと博物館 朝日中学生ウィークリー 2000年3月5日

高知県・柏島 支えるのは閉校間近の中学校
学んで知った当たり前の自然の大切さ

幡多教育フォーラムでの男子3人の発表風景  高知県大月町柏島は、四国の西南端にうかぶ漁業の島。周囲わずか4kmほどだが近海は生き物の宝庫で、年間1万人ともいうダイバーが訪れる。この島を、まるごと自然博物館(フィールドミュージアム)にしようという構想がある。研究や自然体験の拠点になる施設「黒潮実感センター」を中心に、みんなで自然をわかちあい、保護や地域振興にもつなげていこうとするものだ。センターの設立準備委員会が置かれているのは、島にただひとつの中学校。来春の閉校が決まっているこの学校では、準備委員会の研究者を講師に、環境学習を行っている。(佐々木道子)

環境保護を訴え、学校の塀に飾るための絵 四国本島から柏島への橋を渡ると、小さな校舎が迎えてくれる。島内と対岸に住む11人の生徒が通う柏島中学校だ。1960年代に100人前後だった生徒数は、養殖漁業の落ちこみとともに減った。2001年春、大月町の5つの中学校は一斉に閉校し、新設の1校に統合される。
 柏島中の11人は、きょうだいのようだ。「家より学校の方がおちつくねんよ」「遊びにくるのもここだったりするけん」という。男子は1年生の3人だけ。「いごごち悪いです」と冗談半分にこぼした。
 その3人、森下力君、山本雄喜君、堀渕竜誠君が大舞台に立った。高知県西部で、特色ある学習活動をしている小・中・高校が参加したフォーラムでの発表だ。環境教育の社会人講師、神田優さん(黒潮実感センター設立準備委員会事務局長)から学んだことをもとに、島の自然や環境問題について話した。

柏島の海中写真(カマスとキンギョハナダイの群れ)Photo by M. Kanda  柏島の海は黒潮と豊後水道の影響を受け、温帯にありながら熱帯産と温帯産の生き物がまじりあう。日本有数の規模のサンゴに囲まれ、96年に報告された魚種は884、新種や日本初記録種を合わせると、国内の魚の約3割、1000種が見られるいう。
 問題もおきている。ダイバーが増えるにつれて、地元漁師とのトラブルが目立ってきた。ダイビングの船のアンカー(いかり)がサンゴを傷つけることもある。外から来る人だけではない。豊かな海を当たり前のものと思ってきた島の人には、気軽にゴミを捨てたり燃やしたりする習慣が残る。
 神田さんは高知大、高知医科大で講師をしている魚類生態学の研究者。学生時代から通った柏島に、一昨年移住した。「ここが一番いい海と思っている。次の世代に残したい気持ちは人一倍」という。地元の人が目の前の自然の価値を理解すれば、守ろうとする動きが生まれるはず。しかし、毎日見ているだけに良さを実感できない。生徒たちもそうだった。

山と海の子供体験学習交流会の模様(平成11年9月11-12日開催)  学校では昨夏、山間の西土佐村から小学生を迎え、交流しながら海で体験学習をした。目を輝かせる山の子たちを見て、島の生徒はちょっぴり変わった。「大きくなったら柏島には絶対住まん」と話していたという山田希さん(1年)は「都会の便利さに負けないくらいすばらしいものを柏島はもっている。どちらがいいとはいえないけれど」と作文に書いた。フォーラムでの発表の最後に朗読され、大きな拍手をあびた。
 校長の田中農三先生は、「共生」をテーマにした環境学習から、自然と人だけでなく、人と人のつながりを見つめ直してほしいと思っている。どちらも島の子の生活から急速に失われてしまったものだ。「学校統合後もスケールの大きな総合学習につながれば」と期待する。  学校跡地の使い道はまだ決まらない。高齢化が進む中で「何かの形で子どもの学び場に」と願う人も多い。生徒たちからは実感センターとしての再生を望む声が聞こえた。「閉校はきびしいよ。でも神田先生がおるやん、ここに、ずっと」。堀渕君はいった。