「こじゃんと話して」
柏島 まるごと自然博物館に 漁業と観光共存、環境も保全
(朝日新聞:7月3日掲載)
四国西南端、熱帯魚とサンゴ礁に囲まれた大月町の柏島。周囲約四キロのこの島を丸ごと自然博物館にしようと、壮大な計画に取り組む。島民を主役にして、漁業と観光の共存、環境保全を目指す「島おこし」の青写真が見えてきた。
柏島は、土佐くろしお鉄道の宿毛駅から車で約五十分。橋で陸続きになっている。島は今、どうなっていますか。
「かつてはカツオやアジなどの沿岸漁業で栄えたが、若者の漁業離れで過疎化が進んでいる。人口約五百七十人の約三割は六十五歳以上だ。周囲の海は黒潮暖流の影響を受け、温帯にもかかわらず熱帯産と温帯産の約千種の魚がいる。サンゴ礁も全国屈指といえる。最近、島にスキューバダイビングやいそ釣り目当ての観光客が年間約三万人訪れている。」
島を丸ごと自然博物館にする構想とはどんなものですか。
「一昨年七月、大学の研究者や地元住民ら二十七人で設立準備委員会を発足させた。高知県は自然環境に恵まれながら、自然史系博物館がほとんどない。大月町の海の美しさを生かす施設として『黒潮実感センター』を自然史系博物館にする構想が生まれた。事務局は町立柏島中学校の一室に設け、私とスタッフの二人が常駐している。博物館といっても箱物を重視した従来型ではなく、島全体をフィールド・ミュージアムとしてとらえ、ダイビングやいそ遊びなど自然の素材を生かした体験型の博物館を想定している。町と協力し、今年度で閉校になる中学校跡を、博物館の研究施設や環境教育などの活動拠点に使うことを検討中だ。」
構想の進ちょく状況は。
「二〇〇二年度の開設を目指している。これまでに、水中生物の映像ライブラリー製作や『柏島の海の生き物の写真ギャラリー』を設けたほか、『海の環境学習会』などの学習会を四十回程度開いてきた。六月十日に開いた『柏島シンポジウム』もその一環で、環境保全型の地域おこしとして、自然博物館が果たす役割を検討し合った。」
設立準備委員会の現状と住民の理解度は。
「研究者を講師に柏島公民館などで開く『海洋セミナー大月』には毎回、島の内外から約八十人が出席している。昨年六月、島の活性化地区委員会によって『島おこしの会』ができた。月一回、島が抱える問題点を話し合っている。ダイバーと漁業者とのトラブル、駐車場不足、ごみ問題、夜の騒音など、観光客への苦情も多い。すべての住民に構想が理解されているとは思っていないが、『おらが町の博物館』とした構想の位置づけは浸透している。」
柏島の魅力と今後の課題は何ですか。
「私が柏島を初めて訪れたのは十三年前、大学一年の時だ。高知市の近海で潜っていたが、柏島周辺を潜って魚種の多さと美しさ、透き通った海中に圧倒された。サンゴ礁を見た時には沖縄の海を潜っている気分になった。テレビ番組などで紹介され、ダイバーが急激に増えた。新しいポイントや珍しい魚が発見される半面、サンゴの荒廃が目立つ。環境を守りながら永続的に利用していくには、しっかりした海のルール作りや環境保全活動が必要。センターは『人と自然との共存』をスローガンに運営していく計画だ。」
建設資金はどうしますか。
「運営方法を検討中。一昨年、県の『県民のアイデア募集事業』に提案した『黒潮実感センター構想』が採用され、ビデオライブラリーの製作費など総額で三百三十万円を受けた。企業から助成金も受けているが、準備委員会の運営費に消え、建設資金はない。設立を支援してもらうため『黒潮実感センター設立友の会』を発足させ、会員を募集している。年会費は個人が一口二千円、団体が一口二万円。寄付もお願いしたい。会員にはイベントの案内、島周辺の海の状況を会報誌や電子メールで知らせている。」
問い合わせは、設立準備委員会(0880・62・8022)へ。