ダイビング業者と地元漁協が海のルールづくりへ協力 大月町・柏島

 夏本番を迎え、幡多郡大月町柏島は、京阪神方面や四国内からスキューバダイビング目的の若者たちでにぎわっている。そんな中、数年前から摩擦が続いていたダイビング業者と漁業者との間で、関係修復に向けた動きが見えてきた。今月から始まった観光イカ釣り漁がそれ。互いに協力して新たな観光資源開拓を狙っている。実験的取り組みだが、関係者は「これを第一歩に、柏島周辺の海のルールづくりに結びつけたい」と期待している。

漁業者との摩擦解消へ

 約一千種ともいわれる魚種の多さと透明度の高い海が柏島の魅力。テレビ、雑誌などにも数多く取り上げられ、全国でも有数のダイビングスポットになった。この流れに乗り、五業者によるダイビング事業組合ができたのは七年のこと。漁業者とのトラブルを避け、円滑な海面利用の促進が主目的だった。町などもこの動きに呼応。船舶安全運航の観点から、県の助成を受けて、ダイビングポイントに浮きブイを設置した。

 しかし、地元漁業者とダイビング業者との溝が徐々に浮かび上がってきた。漁業者は「海は自分の生活の場」と考えたのに対し、ダイビング業者は「海はみんなのもの」という考え方。相反する考えが、漁場への侵入などのトラブルを生んだ。同組合は、二年前に一度組織の立て直しを図ったものの、漁協などとの話し合いはまとまらなかった。

 それでも、地元住民をはじめ、漁業者やダイビング組合員の中から、強固な中心的組織になってほしいという要望は強かった。このためことし三月末に、ダイビング事業組合は発展的に解散。引き続き八人の委員が選出され、「大月スクーバダイビング組合管理運営委員会」という形で再出発した。

イカ釣らないか

 まず同委は、漁協と話し合いの場を持つことを考えた。大月町職員らも間に入り、柏島漁協との話し合いが行われた。福留輝政委員長はこう語る。

 「ダイビング禁止場所の設定や潜水届の提出などを確認し、関係修復へ一歩踏み出しました。その中でこちらは新たな観光事業の協力をお願いしたんです」

 同委から提案したのは夕涼みがてら行うイカ釣り漁だ。狙いは昼間にダイビングを楽しんだ若者客。民宿とダイビングショップにしか金を落とさないといわれる若者に、新しいレジャーを提供し、なおかつ地域にも利益が回ってくる。その点を説明して、小型漁船を夕方から出してもらう協力態勢を得た。

 七月。港から十分足らずの沖合で星空を見上げながら行う観光イカ釣り漁が始まった。時間は日没三十分前から午後九時まで。柏島内の民宿やダイビングショップにポスターを張り、呼び掛けている。体験した客にも「釣れた時のピクッとした感触が面白い」と好評。同委は夏休み中、さらなる周知活動を行う予定だ。これには漁協側も前向きで、同漁協の亀尾猶造組合長は「試みはいいと思う。地域おこしへ進めていくためにも、安全管理は徹底していきたい」と話す。

環境保全も併せて

 柏島で海洋生物の研究機関「黒潮実感センター」設立に向けて活動を行っている神田優さんは「環境保全面では、柏島だけでなく周辺の海も含めた視点が必要」と指摘する。一カ所のさんご礁にダイバーが集中して荒れてしまうことを避けるため、大月町一切地区なども含めた潜水ポイントのローテーション化を提案している。

 福留委員長も「われわれも新たなスタートを切ったばかり。観光事業を含め、模索していきよる途中です。ルールづくりを目指して漁業者と話せる環境をもっと整えていかねば」と現状を話す。潜水ポイントはもちろん、来訪者の駐車場所確保、ごみの問題など課題は尽きない。

 柏島に来た若者たちが、住民の生活に触れ、さまざまなことを感じ取る。そんな交流の場にしたいという点で、関係者の意見は一致している。ダイビング業者と漁業者とのルールづくりは、言い換えれば財産である「里海」をどう守っていくかということだ。業者の取り組みに期待がかかる。(宿毛支局・西森征司)

【写真】小型船に乗ってイカ釣り。日没直前がスタートだ(大月町柏島)