第3回「朝日 海とのふれあい賞」の準賞を受賞しました!(2000年12月2日 朝日新聞掲載記事)

   海や渚を大切にする心を育み、後世にきれいな海を引き継ぐ活動に取り組んでいる人たちを顕彰する第三回『朝日 海とのふれあい賞』(朝日新聞社主催、文部省、農林水産省、運輸省、建設省、科学技術庁、環境庁、財団法人日本環境協会、全国市町村教育委員会連合会、朝日学生新聞社後援、特別協賛マイカルグループ)の受賞者が決まった。全国から百九十件の応募があり、「海への貢献部門」で三団体、「マイカル海大好き部門」で十の団体・個人が選ばれた。

環境教育関連、目立った

 第三回『朝日 海とのふれあい賞』の受賞者が決まった。「海への貢献部門」の正賞は、南の島の貴重な自然を守る小笠原自然観察指導員連絡会のグループが受賞した。小笠原は「東洋のガラパゴス」とも称せられ、島には動植物を含めて多くの固有種がいる。島を訪れるエコツーリズム客は、島とその自然を守る指導員の姿勢に大きな共感を覚える。そして、微妙なバランスの上に成立する島の生態系を守る意義を学ぶのである。
 小笠原ははるか太平洋上の島であり、島の自然そのものへの取り組みが注目された。これに対して準賞の二件では、いずれも地域社会と結びついた海への主体的な取り組みが評価された。
 高知県・柏島の黒潮実感センター設立委員会による海のフィールドミュージアム構想は、地域振興、環境保全、学術研究の三本柱を掲げた地域における未来志向の活動である。
一方、曽根干潟における北九州市立曽根東小学校の活動は、小学校に授業に環境教育を巧みに取り込んだものであり、絶滅危惧種のニッポンバラタナゴの発見につながるなど、活動の成果も具体的かつ着実である。
 「マイカル海大好き部門」では、芸術から生活・文化、スポーツ、小・中学校の活動に至るまで、過去最多の応募があった。突出した活動と評価できるものがやや少ないのは残念だったが、高知における浜を守る運動や、対馬で和船を漕ぐ体験学習などが印象に残った。
 総じてみると、本年は環境教育に関連する活動が顕著であった。審査員の間でも、環境教育のあり方をめぐる白熱した議論があった。インターネットや映像メディアを通じた現場教育の試みが今後、どのような役割を持つのか。海とのふれあいにおける直接体験と疑似体験の位置づけ、教育上のコストなど検討すべき課題も多い。今後とも、世界と地域に発信できる海への貢献活動が持続的に進め られることを期待したい。
(審査委員長・秋道 智彌)

審査委員(敬称略)
秋道 智彌(国立民俗学博物館教授)
中村 征夫(水中写真家)
清水 國明(タレント)
宮崎 美子(俳優)
宇都宮浩太郎(マイカル社長)
石井  晃(朝日新聞社論説委員)



<海への貢献部門>
正賞

小笠原自然観察指導員連絡会 山田 捷夫 会長(55)=東京都小笠原村
手引書作り生態系保護
 コバルト色の海と空にあこがれ、毎年、ダイバーや観光客が東京から南方に約千百キロ離れた小笠原諸島に大挙してやってくる。
 がけなどに穴を掘ってできた巣が踏みつけられた跡。「かわいい、かわいい」と人間が近づき過ぎたためストレスからえさを食べたれなくなったヒナ……。
 「だれも悪気があってのことではない。ここは観察ルールが確立されていない。何もわからず、自由勝手に歩き回るのだから当然」ダイビングガイドでもある小笠原自然観察指導員連絡会会長の山田捷夫さん(55)は言う。
 一つの対応策として今年、折りたたみ式のガイドブックを出した。隆起サンゴ礁による独特の景観で、小笠原諸島の中でも人気の観光スポット、南島を訪ねる観光客や業者に向けて作った一種の「手引」だ。南島内の動植物を紹介し、生態系を壊さない見学ルートなどを示してある。
 南島に限らず、国立公園でありながら専門の指導員がいないなど環境保全に配慮した管理策が十分にとられてこなかったと山田さんはいう。「ならば自分たちの手で、『民間でできる保護活動をしてやろう』と考えた」。その思いが活動の原動力になっている。
 「独特の生態系を持つこの土地ならではの活動ができるはず」。日本自然保護協会が父島で開いた「自然観察指導員講習会」の参加者が意気投合し、一九九五年に連絡会が設立された。会員四十二人はみな父島の住民。研究者、主婦、公務員のほか約半数が観光業にたずさわっている。
 小笠原固有の植物や動物に関する勉強会を重ねる一方、一般島民を対象にした啓発活動として、ザトウクジラやバンドウイルカの観察会やハイキングなどを毎年五、六回開いてきた。アオウミガメ の産卵地である海岸の電灯も、こうこうと輝く白熱灯ではなくオレンジ色の電灯にするよう行政に提言し、実現させた。
 現在、南島のガイドブック製作の実績が認められ、小笠原村から父島のガイドブック製作を委託されている。小学校の環境活動を通じ、絶滅の危機にある固有種のオガサワラグワの植栽を進める計画もある。
「勉強会や観察会の成果をもとに、知恵を絞る場面は今後ますます増えそう」。日焼けした山田さんからこぼれた笑みは、力強かった。

準賞

黒潮実感センター設立委員会 神田 優 事務局長(34)=高知県大月町
島を丸ごと自然博物館
 四国の西南端に位置する高知県大月町の柏島。最深で約四〇メートルの透明度を持つ周囲の海には、全国屈指の規模を誇るイシサンゴが群生し、約千種にのぼる魚類が泳ぎ回る。周囲約四キロ、人口約五百七十人のこの小さな島を丸ごと自然博物館にしようというのが、黒潮実感センター設立委員会の目的だ。
 「博物館といっても箱物ではなく、島全体をフィールド・ミュージアムととらえ、体験型の学術研究、環境学習の場にしたい」と設立委事務局長の神田優さん(三四)は話す。学生時代、魚類生態学の研究やダイビングで訪れた柏島に豊かな自然に魅了され、一九九八年春に高知市から移住。その年の七月、高知大の研究者や島民らと設立委を発足させ、島内の柏島中学校に事務局を置いた。「研究・教育」「環境保全」「地域振興」を三本柱に活動を続けている。
 県内外の学校を対象にした「海の環境学習会」では、海中写真やビデオを使って島周辺に生息する魚の種類や生態を紹介。山間地の子供たちを島に招き、釣りや海洋生物の観察会なども開く。今年五月には、学習会で柏島を知った大阪の中学生が修学旅行で島を訪れるなど、交流の輪も広がってきた。
 高知大の研究者との共同研究で得た魚類や海に関する情報は地元の漁業者らに提供。ダイバーと定期的に海に潜っては、サンゴを食べる巻き貝を駆除するなど環境保全にも力を入れる。さらに、法学や経済学などの分野からも多面的な研究を重ね、島全体の環境を守るための条例案づくりや、豊かな自然に恵まれた島の経済的価値の算出なども検討中だ。
 活動拠点となる黒潮実感センターは二〇〇二年の完成を目指す。神田さんは「素晴らしい海と人間の生活の営みがうまく調和した、いわゆる『里海』を次世代の子どもたちに残していきたい。豊かな自然を元金にした島おこしへの挑戦です」と話している。


準賞

北九州市立曽根東中学校 奥 庚一郎 校長(55)
干潟掃除子から大人へ
 北九州市小倉南区の周防灘に面した約五百十七ヘクタールの曽根干潟は、「生きた化石」と呼ばれるカブトガニが生息し、ズグロカモメなどの希少な鳥も飛来する野生生物の宝庫だ。歩いて十五分のその干潟を教材に採り入れた同市立曽根東小学校の子供たちの活動が注目を集めている。
 きっかけは、同校が八年前に始めた干潟の清掃。最初は子供たちだけだったが、三年目からPTA、四年目以降は自治会や老人会、そして地元漁協が協力し地域の活動に育った。奥庚一郎校長(五五)は「『曽根干潟をきれいにしたい』という子供たちの作文を読んだ親たちが力を貸してくれた」と言う。
 この取り組みは、すてきな効果をもたらした。干潟に注ぐ貫川河口に漂着したごみを取り除いた結果、カブトガニが産卵のため上陸し始めたのだ。六年の貫貴旭君は「自分たちの活動が、貴重な動物を守るために役立ったとうれしかった」。学校の廊下の壁には、曽根干潟を題材とした自由研究が張り出され、いつでも子供たちが環境保護を学べるように工夫されている。
 地域のお年寄りからは「子供たちの頑張る姿を見て、散歩の途中で干潟のごみを拾うようになった」との声が寄せられ、校内や周囲のごみも以前より格段に減ったという。
 だが、毎年二回のクリーン作戦でも、干潟のごみは無くならない。一回の清掃で集まる空き缶や紙くずはごみ袋で七十袋を越える。
 「なぜテレビや古タイヤを干潟に捨てるのか理解できない。もっと環境のことを考えて行動してほしい」と六年の木下正信君。大人を見る目は厳しい。
 クリーン作戦は単なる清掃活動の域を越え、地球環境を学ぶ場になっている。
 奥校長は「今は子供が大人のお手本になる時代。学校活動を通じ、地域ぐるみで曽根干潟を守っていきたい」と話している。

<マイカル海大好き部門>
* 草加市文化団体連合会=埼玉
 「ミュージカルIN草加 よみがえれ綾瀬川」の公演。

* 河野秀哉さん=三重
 魚のはく製技術の分野で原色永久保存に取り組み、30年がかりで完成させた。

* N・P・Oパパラギ“海と自然の教室”=神奈川
 海で遊ぶ楽しさを知ってもらうためのボランティア活動。

* 大手の浜なぎさの会=高知
 高知県・大手の浜の自然を守り、継承する活動。

* 上対馬町大浦区舟グロー保存会=長崎
 木造和船「舟グロー」の操船を高校生に指導し、クラス対抗舟グロー大会を支援。

* 三上元則さん=滋賀
 本来の美しい琵琶湖を次世代の人に伝える活動。

* 鹿屋海洋スポーツクラブ=鹿児島
 地域における海と親しむためのクラブ活動。

* 波佐見・緑と水を考える会=長崎
 子どもたちに川遊びの楽しさを体験させる活動。

* 村上市立村上東中学校「粟島海峡水泳リレー横断実行委員会」=新潟
 中学生と保護者、教員が力を合わせ、粟島海峡を水泳リレーで横断。

* 酒田市立十坂小学校=山形
 十坂の人・自然・文化に浸る活動。