〜海の創世記〜新時代の潮流〜
(読売新聞2001年1月3日掲載)


・漁業とダイビング共存がカギ
 ・柏島を海洋レジャー拠点に
  ・島発展 無限の可能性

 周囲4キロ、面積1平方キロの小島に、12店のダイビングショップが並ぶ。半数がこの二年間で開店した。サンゴ群落が残る県西端の大月町柏島。ダイビング雑誌に取り上げられるなど、都会のダイバーから脚光を浴び、海洋レジャー拠点として無限大の可能性を秘めるが、世紀の転換期に超えなければならない「壁」があった。ダイバーと`"先住者"である漁師との調和をどう図っていくかだ。
 ショップを経営しインストラクターを務める長尾陸平さん(59)は年間三百日、海に入るベテラン。高知市で二十年間営業したが、島に魅せられ1994年に拠点を移した。「魚の種類、サンゴの密度がダントツだから」と"移住"の理由を語る。
 黒潮が島の南を流れ、生態系が温帯と熱帯にまたがるため、高知大の調査で確認された魚類は900種以上。国内の全確認数の4分の1を占める。<海の秘境>として柏島人気は急騰。長尾さん経営の「シーエアー柏島」も1994年のオープン時の5倍以上の年間約2500人が関東、関西から訪れる。
 しかし、ダイバー側は、海を仕事場とする漁師、漁協とのあつれきをどう解消するか、という難題を抱えていた。ポイントはサンゴの群落が見られる後浜の一部。ピーク時にはダイバー船が20隻近く集まるが、漁場を荒らすモラルの低いダイバーがいたことも事実で、漁協は態度を硬化。
 同町のダイビング関係者が95年に事業組合を発足させ、漁協とのルール作りを進めようとしたが、溝は埋まらないまま解散した。
 事態打開に乗り出したのが高知大非常勤講師の神田優さん(34)。島全体を自然観察会やダイビングのできる"体験型博物館"にしようと昨夏、「黒潮実感センター設立委員会」を立ち上げた。メンバーは柴岡邦男町長ら町関係者、住民で構成、2003年中のスタートを目指す。「両者がいがみ合い、島の人気だけが上昇する現状は町にとって不幸。ダイバーの存在を地元にうまく生かす仕組みを作る必要がある」と神田さんは力説する。
 長尾さんらダイビング関係者は神田さんらを交え、昨年暮れに新たな事業組合を発足させた。町の協力もあって柏島漁協も話し合いに応じる姿勢で、交渉の道筋は作られた格好。「共存共栄はできますよ。そのために組合を作ったのだから」
 長期間、組合設立の準備に携わってきた長尾さんの思いは熱い。
「ダイビング客にイカ釣り漁船にも乗ってもらえば地元の漁師も潤う」。神田さんも新時代の島の繁栄プランを練る。
 県海洋漁政課の平田益良雄課長(56)は「海に囲まれた県にとって、漁業とダイビング業との調和は21世紀の海洋戦略のカギ」と指摘する。島での取り組みが新世紀レジャーの発展を占う試金石となる。

メモ
 県内のスキューバダイビングの主な潜水スポットは、大月町のほか、宿毛、土佐清水、土佐市、中土佐町など。ダイビング関係者が組合を設立して、漁協側との協定を結んだのは、宿毛市沖ノ島だけだが、市外のダイバーとのルール作りは不十分で、課題が残る。