島ごと自然博物館に
(2001年3月31日 高知新聞「四国ふるさと自慢19 柏島(大月町)」)

 三月のある夜、幡多郡大月町柏島で海洋セミナーが開かれた。講師は伊豆七島の三宅島で五十年以上研究活動を続けてきた海洋生物学者、ジャック・T・モイヤーさん(七二)。講演の中でモイヤーさんはこう言った。  「柏島にいる海洋生物は千種類近く。これは三宅島より多い。島に近いポイントにこれだけの自然があることを地域の人にもっと分かってほしい」
 四国西南端に位置し周囲約四キロ、人口約五百七十人の小島である柏島。黒潮の恩恵を受けるこの地は、わが国有数のサンゴ群生地として脚光を浴びている。近年は関東、関西方面を中心にスキューバダイビング目的の客が多数訪れ、島にはダイビングショップが十軒以上もある。
 柏島には今、島全体を丸ごと自然博物館にする計画がある。3年前、高知大学の研究者と住民らで海洋生物研究施設「黒潮実感センター」を設立しようと準備委員会ができた。
 事務局長の神田優さん(三四)は「温帯域でありながら、熱帯の魚もたくさんいる。従って魚種が多い。それが柏島の特徴であり魅力。この環境を守りながら、地域おこしに結びつけたい」と意気込む。
 しかし、自然と環境の共存には努力が必要だ。1ヵ所のサンゴ礁にダイバーが集中すると、船のいかりやダイバーの不注意でサンゴが荒れてしまうことがある。逆にあちこちで潜ると、漁業者との間に摩擦を生んだりする。対応策に知恵を絞らねばと神田事務局長は続ける。
 「人と自然が上手に付き合っていくには、やはりルール作りが必要。これは観光客、ダイビングショップ、地域住民がそれぞれの立場で環境保全の視点を持たねばならない」
 昨年末には柏島のダイビング業者が組合を結成。地域との共存共栄へ一歩踏み出した。豊かな海洋自然を守り育てていくために、地域は模索を続けている。

 【メモ】高知市から国道56号で宿毛市まで3時間。宿毛市からは国道321号と県道柏島―二ツ石線を経て車で約50分。柏島は橋で結ばれている。磯釣りのポイントとしても知られる。問い合わせは黒潮実感センター設立委員会(0880・62・8022)。