柏島の海に魅せられて丸ごと自然博物館に
(2001年4月8日 毎日新聞(高知版)(コラム「チョッと茶ろん」)

 沖縄や奄美諸島を上回る国内最多の約1000種の海洋生物が住む大月町柏島の海。サンゴ礁に囲まれた豊かな自然を生かし、島全体を自然博物館にする運動を進める「黒潮実感センター設立委員会」が、試験的に魚礁の設置を計画している。アオリイカの産卵場として利用し、地域おこしに役立てたいという。島にひかれて移り住んだ同実行委員会事務局長の神田優さん(34)に、島の海の魅力や運動の経緯などを聞いた。[古谷 秀綱]



<高知市生まれ。高知大農学部栽培漁業学科を卒業、東大で農学博士号取得。専門は魚類生態学。高知大の非常勤講師を務めるかたわら、センター設立に向け、学習会開催や機関誌発行などに力を注ぐ>

 大学1年の時、初めて柏島に来てダイビングをし、魚の量に圧倒されました。頭上にキビナゴが雲を作り、あたりが暗くなる。イサキやタカベの群れが川のように流れ、これを狙ってブリやカンパチなど、回遊魚もすごい群れ。陸地は温帯なのに、海に顔をつけたとたん、チョウチョウウオやスズメダイなど極彩色の魚が目に飛び込み、亜熱帯の世界が広がります。まるで沖縄みたいで、これが高知の海かとびっくりしました。

<この海を守り、多くの人に素晴らしさを知ってもらうと同時に、豊富な海洋生物の生態研究を進め、環境教育の場に出来ないかと、センターの構想が浮かんだ。卒業後、島に定住し、1998年に研究者や町民らと27人で、センター設立準備委員会(現・設立委)=会長・柴岡邦男町長=を設置。現在は旧町立柏島中学に事務局を置き、映像ライブラリーを整備し、県内小中高校などを巡回して「海の環境学習会」を約40回開催。昨年6月、初のシンポジウムを開き、全国から300人が参加した>

 従来ある、死んだ標本を見せる箱ものではなく、地元の人の暮らしも含め、島を丸ごとフィールドミュージアムにしたい。磯遊びや素潜りから入り、少しアカデミックな領域に踏み込む体験型の施設です。センターが行う海洋生物の研究成果は、セミナーを開くなどして、真っ先に地元に還元したい。年間3万人近く訪れるダイバーが海を荒らさないようルールを作り、漁師とのトラブルを防ぐ活動も進めています。

<豊かな海を守るには、地元に経済的なゆとりが必要。そこで、町とタイアップして同センターを地域の漁業振興に役立てることも、設立委員会の大きな目標。一つの試みとして、同島の灯台近くの海底に小規模な魚礁を試験的に設ける。水深20〜25メートル程度を予定しており、アオリイカの産卵場にしようと計画中>

 魚礁は、柴を束にしたもの、樹脂の人工海草、鉄枠に古い漁網を掛けたものと、3種類くらい試すつもり。人工海草には天然の海草が生えて藻場となり、産卵場所になります。アオリイカは刺身やスルメの材料として高価なうえ、大きな船や道具を使わず獲れるので、現金収入源として役立つでしょう。

<今後、資金確保などの課題を乗り越え、2、3年以内にセンター開設を実現したいという。現在、「黒潮実感センター設立友の会」会員を募集中。年会費は個人1口2,000円、法人同20,000円。問い合わせは同委事務局(0880-62-8022)>