<島を活かす 丸ごと海の博物館に(高知・柏島) NPOが保全・活用>
(8/16 日本経済新聞「島を活かす」掲載記事)

 幹線道から曲がりくねった山道に入り車で約二十分。樹林の切れ間から目指すエメラルドグリーンの海が見えてきた。高知県西端にある柏島は全国のダイバーから注目されている。その理由は周囲四キロの海域に魚類千種類が確認される海の豊かさだ。
 この島を丸ごと海のフィールドミゥージアムに見立てて、環境保全や海洋研究、体験学習などに役立てる「黒潮実感センター」構想がある。今夏、これを推進するボランティア組織が発足した。地元住民やダイバーら四百人からなる「黒潮ボランティア・里海」だ。

 橋の上から海をのぞき込んだ。「あの青いのがソラスズメ、一匹いるのがオヤピッチャ、こっちはカマスの幼魚……」。透き通る海を指さし、高知大学非常勤講師でもある神田優事務局長(34)が次々に魚の名前を挙げていく。まるで天然の水族館だ。
 しかし、ここはガラスに仕切られた水族館ではない。島の人たちが海で捕ったウニを網袋に揚げて通りすぎ、子ども達が泳いでいる。
 「この海はサンクチュアリ(保護区)ではなく、人間と共存する海。ハコモノ博物館はどこでも作れるが、フィールド重視の博物館はここにしかできない」と神田さんは強調する。ダイビングやシュノーケリングを手段に、人間から自然に近づいていく海の自然博物館だ。
 この島で育った米島輝明会長(66)は、かつて一度島を離れた。「十四、五年ぶりに戻った時、初めて豊かさを実感した。フィールドミュージアムで今の子供達にそれを伝えることができる」と話す。活動を広げるために九月末にも特定非営利活動法人(NPO法人)の申請をする。企業などにも支援を呼び掛けていくという。

 柏島の自然は都市から遠いことが守ってきたが、二年後に険しい山道を回避するトンネルが開通する。多くの観光客が押し寄せる前に、自然博物館づくりの活動を通して環境保全と活用を両立するルールづくりが急がれる。