高知県・柏島を海の学習の場に 神田 優氏
ダイバー・漁師が連携 活動本格化へNPO法人申請
〜平成14年1月16日 日本経済新聞(高知版)「ここが聞きたい」掲載〜


 高知県西端にある柏島は周囲4キロの海域に1000種類の魚類が確認される豊かな海だ。この島を丸ごと海のフィールドミュージアムにしようと活動する「黒潮実感センター設立委員会」が特定非営利活動法人(NPO法人)の取得申請をした。今春にも法人化される見通し。今後の活動をどう進めるのか、高知大学の非常勤講師でもある神田優事務局長に聞いた。

(かんだ・まさる)
1966年(昭41年)高知市生まれ。高知大学農学部栽培漁業学科卒業後、大学院博士課程で東京大学海洋研究所に在籍し、農学博士取得。大学1年生の時にダイビングした柏島の美しさに魅せられ、97年に本格的に移り住む。

■黒潮実感センター設立のポリシーは。
「人と自然が共存する[里海]づくりだ。農村の周りにある山が人に手入れされて里山という自然を造ったように、海を生かすことと守ることをバランスさせた持続可能な島おこしを目指している。そのためには環境学習や海洋研究の拠点としてのフィールドミュージアム黒潮実感センターが必要だ。海から恩恵を受ける漁師とダイバーが協力して豊かな海を育てていく土壌づくりの役割も大切になる」

■具体的にはどんな活動をしているのか。
「昨秋から高知大で柏島を舞台にしたリレー講義「土佐の海の環境学」を始めた。受講生は170人の1、2年生。ビデオやスライドを見せて学生に柏島の現状を問いかけている。26日にはそのまとめとして、一般の方にも参加してもらえるシンポジウムを高知大で午後4時から開く」
「島には年2、3万人のダイバーが訪れ、ダイビング関係者だけが潤っている。多くの漁民が面白くないのは当然だ。そこで、ダイバーを漁民の客にしようと、昨年の10、11月に里海市を開いた。港で魚料理や貝細工を売ってもらったのだが、数百人が参加して盛況だった」
「乱獲で減ったアオリイカの産卵床も造ったが、海中に沈めたシバが見えなくなるほど多くの産卵を確認した。これも漁民とダイバーが協力する一つの形ができたと思う」

■NPO法人化で今後どんな活動をしていくのか。
「法人化の狙いは二つ。NPOを支援する財団からの助成を受けやすくすることと、社会的な信用を高めて自治体とのパートナーシップを強化することだ。活動を継続するために2、3年以内に収益事業を確立したい」

■意識差どう埋めるか
<記者の目>柏島は全国のダイバーに注目される。初めてダイビングサービスを導入してそのきっかけをつくったのは神田さんだ。心ないダイバーにサンゴや漁場を荒らされ、自分のせいで宝物が傷つけられている気持ちになったという。黒潮実感センターづくりにかける情熱には責任感もあるのかもしれない。

神田さんは島の豊かさを地元の子どもたちに伝えようとしている。しかし体験学習会を企画しても、金銭を払ってまで参加しようとするのは都会の人だ。島の外と内の意識の差をどう埋めていくのか。地道な活動を応援したい。
(高知支局長 木下修臣)