「海業」で永続的な資源の活用を
高知の海を事例に人と自然の関係考えるシンポ盛況
(『週刊釣りサンデー』2/17号掲載)


 1月26日、高知大学で「土佐の海の環境学シンポジウム−高知の海の環境教育と環境行政:大学と県の役割」が開かれた。主催は高知大学と黒潮実感センター設立委員会(会長=柴岡邦男・大月町長)。
 雨の中、学生や県内外からの参加者約200人が会場をうめた。
 豊かな自然資源を誇る高知。環境を守りながら、将来にわたって恵みをうけつづけるにはどうしたらいいか。高知大学では今年度、学部をこえた共通講義「土佐の海の環境学」を持った。自然科学と人文科学の教官が交代で登壇。県西南端、大月町柏島のケースをはじめ、県内の海の問題を事例に人と自然の関係を考えてきた。シンポはこの授業の総まとめにあたる。

 基調講演に立ったのは、全国の漁村を回る婁小波・東京水産大学助教授。漁業が衰退しレジャー産業との競合も激しくなる中、僻村でありながら漁家の観光対応で潤う福井県三方町と、漁協と町が主体となって外部業者と連携、ダイビング案内業を順調に滑り出させた徳島県牟岐町の成功例を挙げた。人と環境、人と人の間のルールづくりが必要と説く。

 婁助教授は海洋資源活用の新しい形を「海業」(うみぎょう)と呼ぶ。漁業には邪魔だった波や熱帯魚もまるまる観光・レジャーの資源に変える。主体はあくまで地域住民、漁師だ。ルールを守らせ、利益を公正に配分するのが容易になるという。
 過疎地の産業構造が変わり人が住み着けば、漁業の担い手も生まれる。「海業」は環境保全を前提とし、海に多様性があるほど有利なのがポイントだ。環境教育、人材育成が求められる、としめくくった。

 講演を受け、小椋克己・県立坂本龍馬記念館館長、黒潮実感センター設立委員会事務局長の神田、柴岡邦男・大月町長、橋本大二郎・高知県知事、山本晋平・高知大学学長の5人がパネルディスカッション。柏島の事例を手がかりに、住民、行政、大学、事業者、NPOなどの連携のあり方を参加者とともに考えた。
 周囲4キロの柏島の海にはサンゴと1000種近い魚が群れる。黒潮実感センターは、柏島そのものを自然の博物館に見立て、地域に根ざした環境保全活動を行う構想。年内にNPO法人として立ち上げる計画だ。
 島では近年、観光客の増加で環境にあたえる影響が心配され、ダイビングなどのレジャー産業と漁業の摩擦も起きている。設立委の私は「お金に結びつく事業に一斉に走ってしまう傾向」が、持続可能な資源利用を妨げると指摘した。設立委の小中高校生向け環境学習には、将来を展望する目を育てる意味もこめられている。

 柴岡町長は「町の命題は地域振興」とし、町全体をフィールドにした観光産業の構想にふれた。知事は「海業」的な広い視点で海をとらえる政策を説明。「地域に根ざし、地域を動かす人づくり」を述べ「高知大の学生が地域住民の感じていることを聞き出せるのではないか」「柏島を自然科学の研究・教育の場として見るだけなく、ぜひ社会環境学のフィールドミュージアムとしたい。そうすれば一歩ふみ出せない他の地域にも広げていけるはずだ」と話した。