増やせ!アオリイカ 大月町・柏島で産卵礁が成果
(高知新聞5月9日掲載記事)


 幡多郡大月町の柏島で、アオリイカの産卵場所を確保する取り組みが成果を挙げている。昨年から研究者と漁業者、ダイバーの三者が協力して産卵礁を設置。減少しつつある本来の産卵場所の海藻の再生にも効果が出ている。

 「モイカ」とも呼ばれるアオリイカは、主に定置網や一本釣りで水揚げされる。柏島周辺の浅い海底には、海藻が密集して自生する「藻場」が豊富にあったため、アオリイカにとっては絶好の産卵場所となっていた。

 ところが近年、ホンダワラなど大型の海藻が育たず、海底の岩肌がむき出しになる「磯焼け」現象が増え始めた。全国的な問題にもなっている磯焼けは、山の荒廃で川から海に流れ込む栄養分が減少することや、地球温暖化による水温上昇が原因ではないかといわれており、藻場を好む魚やイカなどの減少を招いている。

 県内初の試み

 この状況に立ち上がったのが、柏島をフィールドにした海洋生物研究機関を目指している「黒潮実感センター設立委員会」だ。同設立委は「研究を地域に還元する絶好の機会」として、昨年からアオリイカの産卵場所となる人工産卵礁設置に取り組んでいる。

 選んだ手法は二つで、一方は木の枝を束ねて沈める「柴(しば)漬け」と呼ばれる従来のもの。もう一つが人工海藻の使用だ。人工海藻は樹脂製で、一メートルほどの“海藻”が数本ずつ海底に立つ形状。柴に比べ費用が高いことから、これまで県内では使われたことがなかった。

 だが「人工海藻に本物の海藻が付いて繁殖すれば、磯焼けの解消につながる。そうなれば決して高くはない」と同設立委の神田優事務局長。柴と違って腐らないため、毎年新たに追加する必要がないのもメリットだという。

 柴の産卵礁の製作には地元の漁民が参加し、設置は大月スクーバダイビング事業組合のダイバーが担当した。漁業と海洋レジャーという対立しがちな立場の両者が、資源確保のために協力することになったわけだ。本年度からはすくも湾漁協が事業主体になっており、さらに三者の連携が進んでいる。

 海のオアシス

 最初の設置作業を行ったのは昨年四月。産卵礁は、磯焼けで海藻が少なくなった場所と砂地の二カ所に設置した。砂地を選んだのは、新たな藻場ができるかどうかを調べるためだ。

 アオリイカは四―六月ごろに産卵する。同設立委は設置後も潜水調査を続け、昨年六月には柴の産卵礁に大量の卵が産み付けられているのを確認した。

 設置から約一年が経過した今月七、八日には、新たな柴の設置作業と、人工海藻の調査が行われた。磯焼け部に設置した人工海藻は水深が深過ぎたためか、ほとんど海藻が付いていなかったが、砂地に設置したものには、本物の海藻がびっしりと生えていた。

 神田局長は「藻場はプランクトンが多くなり、アオリイカの産卵だけでなく集魚効果も高い。海の中に“オアシス”ができたようなもの」と満足そうに話す。

 アオリイカは産卵後に湾から出ていく習性があるため、周辺の漁民の中には「漁獲量が減少するのでは」と産卵礁の設置に反対する声もある。だが「産卵礁により個体数そのものが増えるはず。続けることで成果が出るでしょう」と同漁協。

 アオリイカは干物などに加工し、漁協を通さずに出荷することが多いため、これまで正確な漁獲量が把握できていなかった。そこで同漁協は産卵礁の効果を見るためにも、本年度からは各漁業者に水揚げ数を報告してもらい、個体数の把握に努めることにしている。

 「あらかじめ人工海藻に海藻の種を付けておけばどうなるかなど、ほかにも試したいことがある」と神田局長。研究成果が期待通りの結果を生み、さらに研究が進む好循環。三位一体の取り組みの先には、アオリイカを通じての地域おこしも見えてくるだろう。(宿毛支局・大石博章)

 【写真】柴の産卵礁に大量に産み付けられたアオリイカの卵(昨年6月、写真はいずれも大月町柏島=黒潮実感センター設立委員会提供)