◎PDFのばらまきについて、2011年10月2日にブログに書いたことを改変。

 (前略)
 つい先日、日本および海外の、魚類およびウミウシ図鑑を全部自炊したという人から、PDF をいただいた。
 自炊というのは、この場合毎日3回キッチンでやっているあの作業ではなく、本をバラしてスキャンしてPDFにしてしまうことのほうです。
 その中には我が『本州のウミウシ』も混じっていた。
 複雑な気分であった。

 PDF は便利である。PDF をPC か、iPhone やiPad などのガジェットに入れておけば、読みたいときにすぐ読める。重い本を何冊も持ち歩かなくて済む。
 私自身、既に手持ちの本のPDF化を推進している。

 しかし、断っておくが、私はそのPDFを人にあげたりはしませんよ。自分は著述業で食っているという自覚があるので、モラル上、同業者の食い扶持を減らすようなことはできない。
 どういうことかっていうと、自炊したものを無料配布すると、本が売れなくなるでしょ。1冊ずつ売ってナンボの世界つまり印税で食っている人間は収入が激減するでしょ。
 その結果として良い書き手が世の中から減っていくでしょ!

 ということがわからない人つまりバカが増えている。
 そのバカが自炊した図鑑が、巡り巡って(!)著者本人の手元に届いたわけだ。

 私の読者は賢者が多いが、少しはいるだろうバカ読者のために、もっとわかりやすく書くとですね。
 「私の大好きな**さんの小説、面白いから皆さんも読んで☆」と、あなたが**さんの小説を自炊してPDFにしてネット上で無料配布してしまったら、皆さん**さんの本を買わずに無料のPDFを読むよね。すると**さんのその小説(単行本または文庫本)は売れなくなる。すると**さんは経済的に困窮する。挙げ句に「稼げないのなら小説なんか書いてられない」と作家を辞めてしまうかもしれない。
 PDF無料配布という、善行のつもりのあなたの愚行が、あなたの好きな小説家**さんの首を締めることになるのです。

 さらに言えば、本が売れないことで著者のみならず出版社も弱体化していき、図鑑のように労多くして利益の少ない書籍を出そうなんて出版社はどんどん減っていく。その結果、図鑑を作る人も、図鑑を出版しようという出版社もなくなっていく。
 PDF無料配布という、善行のつもりのあなたの愚行が、出版文化そのものの首を絞めることになるのです。
 自炊のニーズがある本なら、本来は出版社が電子出版化して売るべきではないのか? 時代は既にPDF。そう考えると自炊に手をこまねいている出版社にも落ち度はあるのかもしれないが。

 皆が読みたがる本など私は書かないから、収入は常に低めだけど、せめて低め安定で残りの人生を生きていきたい。
 だから、皆さんどんどん私の本を買ってくださいね。で、どんどんバラして自炊してくださって結構。
 でも自炊したものを無断でネット上でばらまかないでください。私の首を締めないで。

 とか悠長なお願いをしてますが、私の書くものも電子出版化されることを前提に、あるいは最初から電子媒体で出版される時代は目の前に来ている。出版社はその辺、どのようなコピー防止対策をとっているのだろう。
(後略)

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