そのとき、僕はマッコウクジラの群れに囲まれていた。
水面に浮かぶ僕の周りは、どちらを見ても360°クジラだらけなのだ。
その数、20数頭〜30頭はいたのだろうか?
落ち着いて数えてなんていられない。
僕の方に興味を示し、強いクリックス(発信音)を発しながらゆっくりと近付いて来る奴もいるのだ。おまけに口をクワッと開いたりもする。
自分より遙かに大きな動物が、こちらを見ながら口をパクパクさせるなんて、かなり不気味な感じである。
群れの中には10頭ほどの集団があって、お互い体をこすりつけるようにしながら“押しくらまんじゅう”をしていた。
まるで巨大な“ゴンズイ玉”だ。
ひときわ体の大きなオスが、ペニスを出して他のクジラに押しつけるようにしながら巨大な体を激しくくねらせる。
慌ててカメラを構えてはみるが、小さなファインダーに収まりきらないその巨大な営みをどう撮っていいのやら、僕には検討もつかない。だ
いいち、呑気に撮影などして、ファインダーを覗いている隙に後ろから“ガブリ”なんてやられてしまうかも? と想像したら、落ち着いて撮影なんてしていられない。
それでも何とかフィルム1本は撮り終えたので、海面から合図を出して急いでボートを呼んだ。
早くこの状況から逃げ出したかったのだ。
しかし僕の周りはクジラたちに360°囲まれていて、ボートも側までは近寄ってくることができない。
僕はフィルムが終わったカメラを手に、マッコウクジラたちの巨大な性の営みがどこまでも青い海の中で繰り広げられている様子を静かに眺めていた。
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