カツオドリの島 その2 「9月 飛び立ちの木」

 9月、午前2時に起きて、森へと向かった。
 もちろんまわりは真っ暗である。
 目的地へ到着すると予想外にあたりは静かだった。
 耳をすますと、まわりからはオオミズナギドリの声がかすかに聞こてくる。
 懐中電灯に赤いセロファンをかぶせ森へと入った。
 鳥はすべて巣穴で寝ているのかと思ったら、地面に座り休んでいる鳥があちこちにいる。帰り道を間違えて今晩は自宅に戻れなくなったのかもしれない。雛はきっとお腹をすかせて待っているのだろう。
 鳥たちを驚かさないように注意しながら斜面を下り、昼間のうちに下見した木のところまでたどり着いた。
 海の方へと傾いで生えているスダジイの大木である。
 地面に腰を下ろして明かりを消し、のんびり待つことにした。
 どれくらい時間が経っただろうか、まわりはまだ真っ暗なのだが、オオミズナギドリの鳴き声があちこちから聞こえるようになった。
 ガサガサと鳥が地面を歩く音も聞こえる。
 オオミズナギドリが目覚め始めたようだ
 カリカリと何かをひっかくような音がするので、かすかに明かりを照らすと、1羽のオオミズナギドリがスダジイの幹をよじ登っていた。
 意外と速い。かなりの急傾斜なのに、羽を広げ駆け足で軽快に登っていく。
太い幹が枝分かれするところまで一気に登ると、オオミズナギドリは幹の上に座り込んだ。
 目を慣れさせて方向を確かめているのだろうか。
 しばらくすると、その鳥は海の方向へと飛び立っていった。