イルカ ハシナガイルカは亜熱帯から熱帯にかけて生息する2mほどのイルカだ。流線形の美しい体をしていて、英名を“スピナー・ドルフィン”という。文字通り体をひねりながらの回転ジャンプ(スピン)をするのが特徴だ。

 今年の夏、僕はハシナガイルカの観察に多くの時間を費やしてみた。
 小笠原のハシナガイルカは、沖合と岸近くを1日で往復する日周行動をしている。朝から昼過ぎにかけては、岸から1〜2km のあたりの水域で、100 〜300頭程の群れをつくって泳いでいることが多い。きっと休息をしているのだろう。ちょうど父島二見湾のすぐ沖あたりが休むための水域になっているようで、午前中は港を出てから10分程で見つかることが多い。
 “休息中”のハシナガイルカは、大きな円を描くようにしてのんびり泳いでいる。たまに思い出したかのように、1〜2頭のイルカがスピンをしたりするのだが、予告もなく突然水面から踊り出る姿を瞬時に撮影するのはとても難しい。
 何時間もカメラを構えてピリピリしていても全然楽しくないので、僕はイルカの群れの近くでボートを止めては、ぷかりぷかりと漂いながらイルカの“プシュバシャ!”をぼーっと聞いていたり、ハイドロホン(水中マイク)を入れてみたりしている。
 のんびりイルカを眺めていると、イルカの方からボートに寄ってくることがある。きっとボートに興味があるのではなく、たまたまイルカの泳ぐ方向にボートが浮かんでいただけなのだろうが、こんなときが撮影のチャンスだ。ボートのすぐ横でジャンプすることを祈りながらカメラを構える。そうしていると、にぎやかに例の“プシュバシャ!”をしながらイルカは通り過ぎていく。ボートのすぐ近くでイルカが潜ったときには、“ピーピー”というイルカのホイッスル音が船上まで聞こえてくることもある。