イルカ 日が傾いてくる頃、僕の撮影が本格的に始まる。ハシナガイルカの行動が徐々に活発になってくるからだ。きっと日没後、沖合の大陸棚あたりでイルカなどを捕食しているのだろう。西沖を目指して移動を開始する。移動の方向、泳ぐ速度、泳ぎ始める時間などは、日によってかなり違う。午後3時ぐらいからゆっくり移動していくこともあれば、日没ごろ沖に向けて一斉に泳ぎ始めることもある。

 7月下旬、夕方になってもハシナガイルカが昼間のように岸近くでのんびりと休息していることがあった。“こんな日もあるんだなー、夕食はどうするんだろう?”などと思っていると、日没直前、イルカの動きがにわかに活発になった。
 沖に向かって移動しながら、琥珀色に輝く海を背景に何回もスピンを繰り返している。飛び散る水しぶきが金色に染まる。スピンはイルカ同士の何かのサインなのだろうか? あちこちで同時にジャンプが始まった。
 そのうち、ハシナガイルカの群れは北西に向かって凄いスピードで泳ぎ始めた。時速200kmはあるだろう。何10頭ものイルカが小さなジャンプを繰り返しながら泳いでいく。まるでイルカのジャンプで作る“WAVE”のようだ。僕のカメラのモータードライブはうなりっぱなしで。10秒もせずにフィルム1本撮ってしまう。日没までの15分ほどで、ハシナガイルカは数km沖まで移動してしまい、僕は3台の一眼レフを駆使して数100枚シャッターを切ってしまった。

 水平線に沈む夕日を背景にハシナガイルカの撮影を終えると、僕はボートのエンジンを停止した。
 撮影の緊張感から解放され、再び静寂な空間が戻ってきた。
 鏡のように静かな海は、夕暮れ空と同じグラデーションに染まっている。
 淡い夕焼け色に染められた海を、ハシナガイルカの群れはジャンプを繰り返しながら、遥か沖に小さくなっていった。