"イルカは玉石"その後(93御蔵)〜その2

 1年ぶりに出た海は、村と同じように何も変わっていなかった。
 イルカたちは崖のすぐ下を海岸に沿うように泳いでいる。
 小さな子イルカの姿もたくさん見える。
 サーフゾーンや潮の中で波乗りやジャンプをしたり、数頭が絡み合うようにじゃれ合ったり……。
 数10頭もの群れになり、のんびりと休息していることもある。
 鬱蒼とした森に覆われた島と激しく流れる黒潮。そして、切り立った断崖の下を泳ぐ親子のイルカ。
 その眺めは、ひとつの完成された風景として、不思議な調和を僕に感じさせてくれた。

 バシャバシャと波しぶきを頭からかぶり、目を赤く充血させながらも、僕は毎日海へと観察に出かけた。
 周囲17qの御蔵島は、ボートでゆっくり回って1周1時間弱。島をぐるっと回れば、少なくても3〜4回、多いときは10回以上もイルカの群れに出会う。1周で出会う頭数は合計数10〜100頭以上。海が穏やかな日にイルカに出会わないことはない。そしてどの群れも岸から200〜300m以内という島のごく近くを、海岸と並行に行ったり来たりしながらのんびりと泳いでいる。背が届くような波打ち際を泳いでいる群れも珍しくはなかった。
 大きく広がる太平洋から見れば、イルカはまるで"島に住んでいる"ようなものだ。
 まさに御蔵島は「イルカの家」だった。
 ちなみに「イルカと泳げる」とすでに有名になっていた小笠原では、一日中ボートで探し回ってバンドウイルカに会えるのは1〜2回。会えないこともある。
 小笠原の海で仕事をしてきた僕にとって、御蔵島はまさに"夢のようなところ"だった。

写真は生後1ヶ月程の子供を連れて泳ぐマエカケ。98.9.9撮影。
(協力:御蔵島バンドウイルカ研究会)