◎『ベータ版日本のウミウシ』についてのお知らせ(2012/08/20 update)

・背景

 はやいもので『本州のウミウシ』出版から8年たちました。
 この間にウミウシ分類学の研究も進展著しいものがありました。
 Web上でウミウシ図鑑を作っておられる方々はたくさんおられますが、皆さん作り直しをしないといけません。そのくらい分類体系が変わりました。
 この分類体系を反映させた日本語の図鑑は、私がこれから出版しようとしている『ベータ版日本のウミウシ』がおそらく初めてです。

 ここ数年「新しいウミウシ図鑑を作ってほしい」とのご要望を多くの方からいただいてきました。昨年『海に暮らす無脊椎動物のふしぎ』を上梓した際には「ウミウシの本ではないの? 他の無脊椎動物もいいけど、はやく次のウミウシ図鑑を作って!」と複数の方から言われ、悲しいやら嬉しいやら、複雑な気分になったものでした。
 もちろん私自身、新たな分類体系を反映した図鑑を作りたいとの思いはかねてよりあったのですが、いかんせん未だ大学院生の身分。新しい図鑑は図鑑を執筆するにふさわしい立場、つまり学位を得てから作ろうと思っておりました。
 学生のうちに新たなウミウシ図鑑を刊行するつもりはなかった。にも拘わらず、敢えて今『ベータ版日本のウミウシ』を作ることにしたのは、ひとえに授業料捻出のためであります。このままでは授業料が払えず休学しなくてはいけなくなるので。

 ひとえに、は言い過ぎでした。
 もうひとつの事情も書いておきましょう。
 日本貝類学会の和文雑誌『ちりぼたん』に、後鰓類に関する論文を連載することになりました。この連載論文にはウミウシ類についての新知見をいろいろと盛り込んでいきます。この連載論文上で和名をつける種もかなりあります(学名は『ちりぼたん』ではなく別の英文の学会誌で論文発表していきます)。
 しかし残念なことに、たとえ和文であっても学会誌は一般の方になかなか読んでもらえません。やはりもっとポピュラーな、『月刊ダイバー』などの雑誌や一般書籍、図鑑などに書かないといけない。
 それに『ちりぼたん』の連載は11回を予定していますが、この雑誌は季刊誌なので11回分を掲載するには3年かかることになります。あと3年!
 あと3年も待てない。との声も多く、私自身あと3年も授業料を未払いのまま、つまり休学したまま大学院に居残ることは不可能です。そこでひとまず電子出版の形で出版することにしました。
 それが『ベータ版日本のウミウシ』です。

・内容について

 『ベータ版日本のウミウシ』は10回更新する予定です。
 最初のvar. 1は「なんだ、『本州のウミウシ』とそんなに変わってないじゃないか」と思われる箇所もかなり多いと思います。
 けれどがっかりしないでください。『ちりぼたん』に連載が掲載されるたびに、その内容、プラス世界のウミウシ研究者が発表するさまざまな研究発表をvar. 2 以降に反映していく予定です。
 さらに、後述する後鰓類データベースと連動し、読者の皆さんから寄せられた情報や写真も盛り込んでいきます。
 そのようにして段階を踏んで変えていき、var. 11を迎える頃には『本州のウミウシ』とは全く別の図鑑になっているはずです。
 けれどvar.12 はありません。連載終了後、電子出版ではなくリアル書籍の図鑑『日本近海産後鰓類』を某出版社から出版し、それをもって一応の完成形、集大成とするつもりです。
 そうそう、『日本近海産後鰓類』にはおまけもつけますよ。それが何なのか、今ここに具体的に書くわけにはいきませんが。
 ひとまずvar. 1 を9月中に販売できるように頑張ります……それでも休学は避けがたい状況ですが。
 休学云々はさておき、どうぞお楽しみに。

・写真と情報のご提供のお願い

 『本州のウミウシ』は内容的にはもう古いですが、掲載した写真の魅力は今でも褪せていません。それだけ素晴らしい写真を選んだことは著者/編集者として自負してよいと思いますし、素晴らしい写真をご提供くださいました皆さんには今でも深く感謝しています。
 そこで『ベータ版日本のウミウシ Var. 1』では(ギャラが支払えないため)プロカメラマンの写真と、連絡がつかなくなった方の写真は別写真に差し替えますが、基本的に『本州のウミウシ』で使用した写真を使うことにしました。
 『本州のウミウシ』で使った写真を敢えて『ベータ版日本のウミウシvar.1 』にも使うことで、学名や和名などの変更がわかりやすく理解してもらえるだろう、とも想像しています。

 しかし『ベータ版日本のウミウシvar.2 』以降は、日本中の皆さんからご応募いただく写真と順次差し替えていく方向で考えています。
 一部地域に偏った写真ばかりで構成しては『日本のウミウシ』『日本近海産後鰓類』の名にふさわしくありませんしね。
 応募いただく方法は、当サイト上に後鰓類(ウミウシ)データベースを構築し、そこに登録していただく形をとろうと考えています。
 データベースを作ることで、さまざまな日本産ウミウシの分布域、生息環境、出現時期なども明らかになっていくと思います。これらのデータは学位取得後に論文化することで、日本のウミウシ研究の一助とさせていただこうと考えています。
 特に『本州のウミウシ』『沖縄のウミウシ』で使用することのなかった四国と九州北部、情報の少なかった東北・北海道、先島諸島で撮影された写真は大歓迎です。

 『ベータ版日本のウミウシ』および『日本近海産後鰓類』に掲載する写真には撮影者の実名をクレジット掲載させていただきます。つきましては登録も実名でお願いします。ただしデータベース上の名前は実名でなくても構いません。
 後鰓類データベースについてはまた別の機会・別の場所に詳細を記します。

・価格について

 予定価格は2,000円です。バージョンアップするたびに、既にご購入されている方はプラス100円の更新料で新しいバージョンを入手していただけます。
 ところが先日「全10回分更新料もまとめて最初に3,000円払う」と言ってくださった方がいらっしゃいました。更新料支払いの手間を考えると価格は3,000円、更新料無料のほうがいいかな、とも思い始めたところです。そんなわけで価格についてはもう少し考えさせてください。
 入手方法とあわせて、9月には決めてお知らせいたします。

・コピーしないでね、のお願い

 形式はPDFの予定です。つまり簡単にコピー(ばらまき)ができてしまいます。しかし私はコピーしてほしいと思ってPDFという形式を選んだわけではありません。ご購入くださった方に、iPhone、iPad、Android、PCなど、お好きな環境でお使いいただきたいと思ってPDFにするのです。

 『本州のウミウシ』が高知県柏島のダイビングショップ、アクアスの常連であるA氏によって自炊され、多くの人(特に関西圏の人)にばらまかれたことを著者の私は知っています。
 しかしPDF図鑑『ベータ版日本のウミウシ』でそれをされると、私の研究はたちゆかなくなります。
 皆さんに購入していただき、そのお金で私は大学院の授業料を払い、後鰓類研究を続けていきたいのです。

 アクアス常連A氏のような阿呆の行為がどういう結果を導くか、別ページに書いておきます。ここをクリックしてご一読ください。
 私はこのA氏を軽蔑しますが、同時にそれを止めなかったアクアスのオーナーご夫妻にもがっかりしました。知らない人ではなかっただけに、心から残念に思います。

 最後にもう一度お願いします。私にウミウシ研究を続けさせたいと思ってくださる方は、コピーして人にあげたりせず、あるいはコピーを受け取らず、どうぞご購入ください。よろしくお願いします。

 配布開始まであと1ヶ月。それではもう少しお待ちください。

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